ARTEXとは? AIが侵入テストを進める仕組みと、攻撃報告の数字の読み方

ARTEXとは? AIが侵入テストを進める仕組みと、攻撃報告の数字の読み方

AIが次の作業を考え、道具を動かし、結果を見て計画を組み直す。その仕組みを侵入テストに使うARTEXについて、2026年10月にはセキュリティ企業やJPCERT/CCが悪用に関する報告を公表しました。[s1][s5]

本記事では、ARTEXの役割分担と記憶の仕組みを整理し、実験結果と実際の攻撃報告を読み分けます。大きな数字を被害件数と取り違えず、自社の公開サービスや外部連携をどこから見直すかを考えます。

情報は2026年10月25日時点のものです。料金・提供範囲・数値は変わることがあります。出典は記事末尾にまとめています。

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この記事のポイント
  • ARTEXはAIモデルそのものではなく、計画・道具の操作・結果の記録を組み合わせた侵入テストの道具です。
  • 報告中の標的数、試行数、失敗ログイン数は、それぞれ侵害や情報流出の件数とは異なります。
  • 公開範囲と権限を絞り、認証やアプリのログを保全・照合することが対策の土台です。

基礎知識:侵入テストとAIエージェント

侵入テストは、許可された対象と範囲の中で、システムの弱点を確かめる点検です。同じ道具でも、使う人の目的や与えられた範囲によって、正当な検査にも悪用にもつながります。[s3]

ARTEXでは、AIが文章を返すだけでなく、集めた情報から次の作業を選び、道具を使った結果を次の判断に戻します。Microsoftは、複数のAIエージェントを組み合わせたシステムとして説明しています。[s1]

作業を継続するには、何を調べ、何が確認できたかを残す必要があります。AhnLabの解説では、対象の資産と探索の経過を別々のグラフで管理し、両者を結び付ける構成が紹介されています。[s3]

主要キーワード・用語の定義
AIエージェント
目標に沿って作業を計画し、道具を使い、結果に応じて次の行動を選ぶ仕組みです。
Asset Graph
ドメインやサービスなど、対象となる資産の情報とつながりを残す地図です。
Exploration Graph
目標、確認した事実、見つかった弱点、次の判断のつながりを記録する仕組みです。
テナント
クラウドサービスで組織ごとの利用環境を分ける単位です。サインインの試行対象になったことだけで、侵害されたとは判断できません。

ARTEXは「次に何をするか」もAIに任せる

従来の侵入テストでも、調査や確認を道具で自動化することはできます。ARTEXで注目されるのは、結果を受け取って次の作業を選ぶ判断まで、AIエージェントに担わせる構成です。[s1][s3]

目標の整理、計画、実行を分担する

要点

AhnLab(ASEC)の表より

Goals

目標と範囲を整理する

Planner

次にやることを決める

Worker

道具を動かして記録する

AhnLabの分析では、Goalsが目標と範囲を整理し、Plannerが次の作業を決め、Workerが道具を動かして確認結果を記録します。実行結果が再び計画に戻るため、事前に固定した手順を順番に動かすだけではありません。[s3]

ただし、役割が分かれていることや承認の手続きがあることは、安全性の保証にはなりません。許可された対象と範囲を定め、何を実行させるかを管理する責任は、利用する側に残ります。

グラフ型メモリで、対象と判断の根拠を結び付ける

長い作業では、同じ対象を何度も調べたり、結論だけを覚えて根拠を失ったりすることが問題になります。AhnLabによると、ARTEXは対象の情報を残すAsset Graphと、探索の経過を残すExploration Graphを使います。[s3]

資産の地図と、経過を残すノート

要点

2冊のグラフ

Asset Graph

資産の地図。何がどこに

Exploration Graph

捜査ノート。経過と根拠

Asset Graphにはドメイン、IPアドレス、サービスなどの情報が入り、複数のタスクで共有されます。Exploration Graphには、目標から確認した事実、発見、次の判断へ進むつながりが記録され、後から判断の理由をたどれます。[s3]

記録のつながりを考える架空の例

手順

グラフに残る流れ(説明用の架空の例)

STEP 1
目標

APIの認証設定を点検する

STEP 2
次の作業

設定の情報を取得する

STEP 3
確かめた事実

一部のAPIにだけ認証がある

STEP 4
見つかった弱点

社内の基準とちがう設定

図は、許可されたAPIの認証設定を点検するという説明用の例です。「認証が必要か」という問いに対して、確認した設定、社内基準との差、次に見直す場所を結び付けることで、結論だけでなく根拠も共有する考え方を示しています。

この説明はAhnLabの分析に基づきます。元のリポジトリを確認できていないため、内部のテーブル名や細かな実装まで検証できたという意味ではありません。

実験で動いた範囲と、未知の環境での能力は分ける

AhnLabは、異なる試験環境で実験を行い、目標・対象・許可範囲を入力して動作を確認しました。Webサーバー上でのプログラム実行に加え、別の実験では入口から内部の4台でコマンドを実行したと報告しています。[s3]

内部4台は、試験環境で確認した到達範囲

4 台
内部でコマンドを実行できたホスト(試験環境)

実験には、既知の脆弱性があるソフトウェアを含む環境が使われています。これは条件付きの動作確認であり、どの組織にも侵入できることや、他の診断ツールより優れることを示す比較試験ではありません。[s3]

今回確認した資料には、他のツールと条件をそろえた優劣の検証はありません。AIの性能だけで結果を説明せず、公開サービスの設定や、修正されていない既知の弱点も合わせて読む必要があります。

Microsoftの数字は、成功した侵害の件数ではない

Microsoftは、ConnectWiseに関する不正アクセスの後、攻撃者がARTEXを使って2,250を超えるテナントへのサインインを試みたと報告しました。これは同社の観測による試行対象の数であり、その数の組織が侵害されたという意味ではありません。[s1]

試行対象の数と、成功した数を区別する

2,250 超
サインインを試したテナント(Microsoft)

同社が別に説明するパスワードスプレーでは、8組織の327アカウントを対象に、15万1,000件を超える失敗ログインが観測されました。この活動では、認証の成功やトークン発行は観測されていないとしています。[s1]

多数の試行が、成功や流出を意味するわけではない

15.1 万件超
失敗したログイン(8組織・327アカウント)
0 件
認証の成功(この攻撃では)

一方でMicrosoftは、複数の事例で、最初の標的化から特権アクセスまでの時間が3時間未満だったとも報告しています。これは同社の評価であり、すべての攻撃がその時間で成功するという説明ではありません。[s1]

「アクセスがあったこと」と「データが盗まれたこと」も別です。速さや規模だけを切り出さず、何を数えた数字か、どこまで確認された結果かを読むことが大切です。[s1]

国内の注意喚起は、攻撃試行の確認を示している

JPCERT/CCは2026年10月23日の更新で、ARTEXなどのAIを用いた侵入テスト基盤を悪用する攻撃試行を注意喚起に追加しました。主な標的として、インターネットに公開されたWebアプリケーションや管理上の不備を挙げています。[s5]

ツールの名前より、対象と行動を確認する

要点

JPCERT/CC 注意喚起(10/23追記・ケースE)

AIの基盤を悪用

Cairn・CyberStrikeAI・ARTEXなど

公開Webアプリを標的

弱点を探して試す

確認されたのは「試行」

侵害の成立ではない

注意喚起に名前が載ったことを、そのまま個々の企業の侵害成立と結び付けることはできません。JPCERT/CCも、すべての事案で同じ攻撃手法が使われていることを示すものではないと説明しています。[s5]

AhnLabは、元のリポジトリが見つからなくなった後にも、名前を変えた派生版が見つかったと報告しています。特定の製品名だけを禁止・監視する方法では十分とは限らず、設定不備の探索や権限の変化といった行動を見る必要があります。[s4][s3]

公開範囲、権限、ログから見直す

AhnLabとJPCERT/CCが示す対策の中心は、公開サービスや管理機能を絞り、既知の弱点を修正し、権限と内部へのアクセスを必要最小限にすることです。AIによる自動化が進んでも、対策の出発点は変わりません。[s3][s5]

対象を減らし、検知と封じ込めを速くする

手順

会社の見直し4つ

STEP 1
公開を減らす

管理画面・API・古いサービス

STEP 2
権限を最小に

アプリや外部連携の権限

STEP 3
検知を速く

ログを突き合わせて見る

STEP 4
広がりを止める

ネットワークを分ける

外部連携を使う組織では、人のログインだけでなく、アプリ自身のサインイン、資格情報の追加、権限割り当ての変更も確認対象です。Microsoftは、疑わしいアプリをいきなり削除する前に、証拠とログを保全するよう勧めています。[s1]

まず管理画面・API・外部連携の一覧を作り、公開する理由と付与した権限を確認しましょう。異常が疑われる場合は、ログを確保したうえで担当者や専門家につなぎ、各機関の最新の案内に沿って調査と対処を進めてください。[s1][s5]

実践のポイント・まとめ

POINT 1

AIモデルとARTEXを区別する

ARTEXは頭脳となるAIモデルと、計画・道具の操作・結果の記録を組み合わせた仕組みです。

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POINT 2

数字の対象を確かめる

試したテナント数や失敗したログイン数を、侵害や情報流出の件数として読まないことが大切です。

1分のショート動画で見る

出典・参考文献

検証ファクト一覧を表示する(全15項目)
ID 確認した事実・仕様 出典 注意・補足
F1 ARTEX は、AI モデルを頭脳に、複数のエージェントが計画・実行をくり返してペネトレーションテスト(侵入テスト)を自動で進めるオープンソースの道具。Go で書かれ、フロントは Next.js。AI モデルは何でも使える。偵察からデータの持ち出しまで、人の手をあまり介さず進められる [s1] 「持ち出し」は道具が実行できる範囲の説明で、実際に起きたという意味ではない
F2 3つの役:Goals=目標と範囲を整理、Planner=集めた情報から次にやることを決める、Worker=道具を動かし確かめた結果を記録。動かすと承認の手続きがあり、Worker の道具の通信の一部は記録される [s3]
F3 2つのグラフ:Asset Graph(対象の資産の地図。タスクをまたいで共有)、Exploration Graph(目標・事実・見つかった弱点・次の判断のつながり)。2つを結ぶ。情報と履歴は PostgreSQL [s3] ASEC の説明。README は確認できず
F4 AhnLab が隔離した検証環境で2回試した。入力は目標・対象・許可範囲だけ(手順・弱点は伝えず)。①ファイルのアップロード機能がある Web サーバー → 1台でプログラムを実行(Windows 11 の電卓を起動)。②ActiveMQ の既知の脆弱性(CVE-2023-46604)がある環境 → 入口の1台から、内部の4台でリモートコマンド実行。どちらも人の介入なし [s3] 試験環境・2回・結果は条件で変わる(ASEC が「may vary」と書く)。②は 2023年の既知の脆弱性
F5 ASEC は、インターネットに公開された ARTEX の操作画面を約600のIPアドレスで確認。ただし600すべてが攻撃者のものとは限らず、特定の攻撃グループとの結びつけもできない。IP の国別の割合から出所は決められない [s3]
F6 CrowdStrike(10/7):2026年9月下旬〜10月初め、韓国の金融機関を狙った攻撃でデータが持ち出された。攻撃者のサーバーの公開ディレクトリに Claude Code のセッション履歴・ARTEX の設定ファイル・Claude のメモリファイルが残っていた。ARTEX は DeepSeek v4.1-flash を主のバックエンドにし、GLM-5.3 と Grok 4.6 を Claude Code のセッションに足した。DeepSeek へは API の中継・再販業者を通した可能性。被害組織の数は未確認。特定の組織には帰属させず、中国語話者で金銭目的の可能性が高い(moderate confidence) [s2]
F7 Microsoft(10/21):Storm-0940(China-state aligned actor、2021年から活動)が ARTEX で、ConnectWise のサプライチェーン侵害のあと、スキャン・偵察・パスワードスプレー・OAuth アプリの悪用を速めた。「世界の数百の組織」を標的にし、複数の事例で最初の標的化から特権アクセスまで3時間未満 [s1] 「Microsoft の製品の脆弱性ではない」とも書く
F8 Microsoft:ConnectWise のあと、ARTEX で2,250を超えるテナントへのサインインを試みた(試した数)。別のパスワードスプレー(10/10〜10/14):8組織の327アカウントに15万1,000件超の失敗ログイン。ピークは10/11の1分あたり2,900件。48アカウントが1,000回超の失敗。認証の成功やトークン発行はなかった(ロックアウトで防がれた割合は約98%)。「大半の標的化は成功しなかった」 [s1] 15万1,000件は流出の件数ではない
F9 Microsoft の推奨:ConnectWise 関連の接続は公式の手順が出るまで無効のまま/エンタープライズアプリはいきなり削除せず証拠を残す/アプリIDでテナントを点検/Entra のサインイン・監査ログを保全/サービスプリンシパルのサインインと資格情報の追加・権限の変更を見る/メール転送などを見る/マルチテナントのアプリに最小権限/アプリの資格情報の追加と異常な権限割り当てを監視 [s1]
F10 GMO(10/19、報道経由):日本企業を狙う攻撃元インフラ1台で ARTEX を確認。標的は約20社(そのうち9社は同じ業種のサイト)。別の AI 攻撃基盤6台も見つけたが、6台すべてで ARTEX を確認したわけではない。標的になった数と侵害された数は同じではない [s7] GMO の本文は未確認
F11 JPCERT/CC(10/23追記):Cairn・CyberStrikeAI・ARTEX などの AI を用いたペネトレーションテスト基盤を悪用した攻撃試行を確認。主にインターネットに公開された Web アプリを標的に脆弱性を探して試す/機器の管理不備を突く/公開された WSUS サーバーを狙う試行も。対策:API のリクエスト数の制限・ログインなどの機能の個別のレート制限・非公開 API を含むアクセス制御・最小権限・トークンの有効期限・漏えいが疑われるトークンの無効化・既知の脆弱性の修正・横展開対策の見直し・検知と初動の見直し・不要な管理機能の公開停止・保存期間を過ぎたデータの削除 [s5] 「試行」=成立ではない。IP のリストは載せない
F12 ARTEX 作者の声明(10/8):悪意ある攻撃は作者と無関係/学習・研究用で、許可された範囲で企業が検査する目的/悪用に強く反対/悪用されているので、今後は更新せずクローズドソースにする — 日本語訳は自分の訳
F13 ASEC(10/15):元のリポジトリが見つからなくなり、名前を変えた派生版(ScopeWeaver・Tangora PTaaS・Horda・Meze・AegisLoop・Bob Research Labs など)が見つかった。派生版は Planner+最大3体の Worker、AI モデルは DeepSeek・GLM・Kimi・Claude などの設定。派生版の一つは、Magento の既知の脆弱性(CVE-2026-75650)の悪用の流れとつながっていた。結論:ツールの名前で探す方法は当てにならない [s4]
F14 ASEC の対策:公開サービス・管理機能を洗い出して減らす/脆弱性と設定の不備を早く直す/アカウントの権限と内部ネットワークへのアクセスを最小に/EDR でファイル・プロセスの実行を見る/XDR で Web・ネットワーク・認証のログと EDR を突き合わせる/特定のツールや UA でなく行動の順番で見る。「防御の基本は変わらない」 [s3]
F15 ARTEX が他のツールより優れているかを比べた検証は、今回の資料にはない —

※ 情報は2026年10月25日までに確認した資料に基づきます。攻撃や調査の続報は各機関の一次情報でご確認ください。

※ グラフ型メモリのAPI点検例は説明用の架空の例で、実際の攻撃やARTEX内部の実装を再現したものではありません。

※ 実験結果はAhnLabの試験環境での報告、攻撃活動の数値はMicrosoftの観測・評価です。独立した再現検証を行ったものではありません。