「AIに覚えさせるほど賢くなる」は本当か —— 2026年10月の記憶の最新研究を論文で確かめる

「AIに覚えさせるほど賢くなる」は本当か —— 2026年10月の記憶の最新研究を論文で確かめる

AIエージェントに記憶(メモリー)をつけたのに、かえって調子が悪くなった――。2026年10月には、「覚えさせるほど賢くなる」という直感に疑問を投げかける研究が相次いで公開されました。

本記事では、2026年9月末〜10月にarXivへ公開されたAIエージェントの記憶の研究(REM・STRATA・JAM・Anti-Persistence・SAFE-Mem)と、まだ解けていない課題を示した研究(Bemula・HABIT-Bench)、いま使える製品(Mem0・Graphiti・Letta)を、論文と公式の情報をもとに整理します。論文の数字はすべて著者らの実験で、査読前のものを含みます。

情報は2026年10月22日時点のものです。料金・提供範囲・数値は変わることがあります。出典は記事末尾にまとめています。

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この記事のポイント
  • 研究の焦点は「どれだけ覚えるか」から「どう運用するか」に移ってきた。
  • 何を保存し、いつ思い出し、何を捨て、誰の許可で使うかを設計することが大切。
  • 「忘れて」に応えることと、少ない手がかりから習慣を読むことは、まだ大きな課題。

基礎知識:AIエージェントの長期記憶と、その設計課題

LLM(大規模言語モデル)は、呼び出されたときに渡された情報(コンテキスト)だけを見て答えるため、それ以外の過去の会話や作業の経緯は覚えていません。そこで、会話をまたいで知識や作業の記録を外部に保存し、必要なときに探して渡す仕組みが「エージェントの記憶(長期記憶)」です。

これまでは、過去の記録をたくさん探してプロンプトに詰め込めば、AIは賢くなると考えられがちでした。しかし2026年9月〜10月に相次いで公開された研究(REM・STRATA・JAM・Anti-Persistence・SAFE-Memなど)は、記憶を無秩序にためて渡すと、似ているだけの経験を写して失敗したり、間違ったルールが残り続けたり、悪意のある指示が記憶に入り込んだりして、かえって成績が下がる場合があると報告しています(いずれも著者らの実験)。

そのため、記憶を「事実」「経験」「やり方」に分けたうえで、何をどの形で保存し、いつ思い出し、いつ捨てるかを管理することが、いまの記憶の設計の中心になっています。

主要キーワード・技術用語の定義
意味記憶・エピソード記憶・手続き記憶
AIエージェントの長期記憶の3つの種類。意味記憶はプロジェクトの事実や設定、エピソード記憶は過去の具体的な作業や失敗の原因、手続き記憶はくり返し使える手順やルールを指す。
負の転移と誤りの再生産
負の転移は、似ているだけで条件の違う過去の経験を写して、かえって失敗すること。誤りの再生産は、AIが自分で作った間違ったルールを記憶に残し、それに従った作業からまた同じルールを作ってしまうこと。
記憶の許可(ガバナンス)
記憶する主張ごとに「種類」「権限」「適用範囲」のラベルを付け、思い出すときに照らし合わせる設計(SAFE-Mem)。外部のWebページから入った未確認の文が、権限のある指示として扱われるのを防ぐ。

覚えさせるほど賢くなるのか

公式の資料から引用
arXiv「More Memory, Worse Agents: Error Reproduction and Anti-Persistence in LLM Agents」(2026年10月19日)
  • 題名=記憶が多いほど、エージェントは悪くなる
出典:arXiv「More Memory, Worse Agents: Error Reproduction and Anti-Persistence in LLM Agents」(2026年10月19日)

「覚えさせるほど賢くなる」とは限りません。10月19日に公開された論文の題名は「記憶が多いほど、エージェントは悪くなる(More Memory, Worse Agents)」でした。[s4]ただし、論文が問題にしているのは記憶そのものではなく、記憶の「ため方」と「使い方」です。[s4]

本記事で取り上げる論文

年表・推移

今日の論文(arXivに公開された日)

9/28
JAM 聞かれたときに調べる
10/13
Bemula 忘れてのテスト
10/14
STRATA 経験の3層グラフ
10/16
SAFE-Mem 記憶に許可をつける
10/17
HABIT-Bench 習慣を読めるか
10/19
REM・Anti-Persistence 保存・想起・忘却/悪い指針

出典: arXiv(2026年9月28日〜10月19日の公開日)

9月末から10月だけでも、AIの記憶に関する研究が相次いで公開されています。[s1][s2][s3][s4][s5][s6][s7]本記事では、このうち前進を示した5本の研究と、まだ解けていない課題を示した2本を整理します。なお、arXivの論文には査読前のものも含まれ、数字はいずれも著者らの実験です。

記憶の基本

コンテキストと記憶は別のもの

比べる

コンテキストと記憶は別物

コンテキスト
  • いま机に載っている情報
  • この推論で読む分
VS
記憶(メモリー)
  • 会話をまたいで残る
  • 必要なとき探して使う

AIがいま読んでいる情報を「コンテキスト」と呼びます。これに対して記憶は、会話をまたいで残り、必要なときに探して使う情報です。

記憶の3つの種類

整理カード

記憶の3つの種類

コーディングAIの記憶(イメージ)

意味 このプロジェクトはPostgreSQLを使う
エピソード 前回のDB接続エラーは、環境変数の設定ミスだった
手続き DBを変えたら、マイグレーションを実行してテストする

※イメージ(作った例)

記憶は、事実・経験・やり方の3つに分けられます。コーディングAIの例でいえば、意味記憶は「このプロジェクトはPostgreSQLを使う」という事実です。エピソード記憶は「前回のエラーは設定ミスだった」という経験、手続き記憶は「データベースを変えたらテストまで行う」というやり方にあたります。

研究の関心が移りつつある

比べる

研究の関心が、移りつつある

これまで
  • 関連する過去を探す
  • 見つけて、机に載せる
VS
いまの論文
  • 何を残すか
  • いつ出すか・何を捨てるか

これまでの研究は、関連する過去の記録を「探す」ことが中心でした。しかし、うまく探せても、動いているAIがいまそれを必要としているかどうかは分かりません。[s1]今回の研究の多くは、この問題から出発しています。

①REM —— 残す・出す・捨てるを判断する

公式の資料から引用
arXiv「REM: What to Store, When to Recall, What to Forget in Experience Memory for Coding Agents」(2026年10月19日)
  • 題名=何を保存し、いつ思い出し、何を忘れるか
出典:arXiv「REM: What to Store, When to Recall, What to Forget in Experience Memory for Coding Agents」(2026年10月19日)

最初は、10月19日に公開されたコーディングAI向けの研究「REM」です。AIは何百手もかけてバグを直しますが、その経験は次の作業ではあまり活かされていません。[s1]

REMの3つの判断

流れ

REMの3つの判断

保存:記録を短い文書に
想起:困ったときだけ詳細
忘却:見せたら捨てる

REMは、記憶の扱いを3つの判断に分け、作業の流れの中に組み込みました。[s1]1つ目は保存で、終わった作業の記録を段階ごとに整理した文書にまとめ、元の約100分の1の大きさにします。2つ目は思い出すタイミングで、文書は作業の最初に渡し、詳しい作業記録はAIが行き詰まったときだけ出します。3つ目は忘れることで、詳しい記録は1回見せたら捨てます。[s1]人の引き継ぎにたとえると、最初は1枚の引き継ぎ書を渡し、困ったときだけ詳しい作業ログを見せるやり方です。

REMの結果

数字

REMの結果(99課題のバグ修正・著者らの実験)

68.7 %
関連する過去を1位で当てた(既存の最良は55.6%)
27.6 %
課題の解決率
−17 %
コスト

出典: arXiv:2610.27377。著者らの実験(エージェントは Claude Sonnet 4.5)

バグ修正99課題を使った著者らの実験では、関連する過去の作業を1位で当てた割合が68.7%(既存の最良の方式は55.6%)、課題の解決率は27.6%でした。[s1]

公式の資料から引用
arXiv「REM: What to Store, When to Recall, What to Forget in Experience Memory for Coding Agents」(2026年10月19日)の要旨
  • 解決率 27.6% 対 24.9%
  • どの繰り返しでも上回った
出典:arXiv「REM: What to Store, When to Recall, What to Forget in Experience Memory for Coding Agents」(2026年10月19日)の要旨

ただし、比べた相手(記録を使い終えても残しておく設定)の解決率は24.9%で、差は2.7ポイントと小さなものです。1つのテストでの結果であり、効果は大きくないものの、3回の繰り返しのすべてで上回っていました。[s1]

同じ経験でも、渡し方で結果が変わる

要点

同じ経験でも、渡し方で変わる

段階ごとの文書

解決率が上がった

要約

上がらなかった

生の作業記録

上がらなかった

出典: arXiv:2610.27377(正解の記録を渡した場合も同じ)

興味深いのは、同じ経験を要約や生の作業記録の形で渡しても、解決率は上がらなかったことです。[s1]論文は、問題は探す精度よりも、記憶の保存の形と管理のしかたにあると結論づけています。[s1]

記憶は万能ではない

もう1つ重要なのは、5つのモデルで試した結果です。もともとの解決率が低めのモデルは記憶で成績が上がった一方、解決率の高い2つのモデルは、どの記憶の設定でも成績が下がりました。[s1]各1回の実験なので言い切ることはできませんが、記憶をつける前と後で成績を測ることの大切さを示しています。

②STRATA —— 経験を3層のグラフに整理する

公式の資料から引用
arXiv「STRATA: Self-Maintaining Structured Experience Graphs for Self-Evolving Language Agents」(2026年10月14日)
  • 題名=自分で整える、構造をもった経験のグラフ
出典:arXiv「STRATA: Self-Maintaining Structured Experience Graphs for Self-Evolving Language Agents」(2026年10月14日)

2本目は、10月14日に公開された「STRATA」です。経験をグラフの形に整理する研究です。[s2]これまでの記憶の多くは、作業の記録も手順も考え方も1つの池にまとめて入れ、似ているものを探していました。[s2]

似ているだけの経験を写すと失敗する

似ているけれど、道は逆(イメージ)
似ているけれど、道は逆(イメージ)

この方法では、似ているだけで向きが逆の経験を思い出し、その手順をそのまま写してしまうことがあります。こうして、かえって成績が悪くなる現象を「負の転移」と呼びます。[s2]

STRATAの3つの層

要点

STRATAの3つの層

L1 小さな技

コードの断片・操作

L2 作業の手順

目的を達成する流れ

L3 共通の考え方

複数の経験から抽象化

出典: arXiv:2610.19386

STRATAは、経験を3つの層に分けて整理します。小さな技(コードの断片など)、作業の手順、複数の経験から抽象化した考え方の3層です。成功した経験からは手順を、失敗した経験からは落とし穴を取り出して、互いにつなぎます。[s2]さらに、似ているけれど向きが逆の経験には「対比の線」を引いて見分けられるようにしています。[s2]

対比の線の効果

グラフ

ScienceWorldの得点(対比の線の前後・著者らの実験)

対比の線なし 似ているだけの経験を写す
78.7
対比の線あり 向きが逆の経験を見分ける
96.7

出典: arXiv:2610.19386。4つのテスト・2つのモデル・7つの比較手法

著者らの実験では、4つのテストで平均点が最も高く、差し込む記憶の行数は最も多い手法より44%少なく済みました。ScienceWorldというテストでは、対比の線を加えることで得点が78.7から96.7に上がっています。[s2]これも著者らの実験ですが、経験がたまるほど整理の仕組みが大事になることを示す研究です。[s2]

③JAM —— 聞かれたときに調べる

記憶を作るタイミング

比べる

記憶を作るタイミング

先に要約
  • 質問が来る前に作る
  • 安いが細かい情報は消える
VS
聞かれてから調べる
  • 元の履歴は全部残す
  • 質問ごとに証拠を集める

3本目は、9月28日に公開された「JAM」です。名前のJust-In-Timeは「必要になったその場で」という意味です。[s3]多くの記憶は、質問が来る前にあらかじめ要約を作っておく方式ですが、その時点では、あとで大事になる細かい情報が消えてしまうことがあります。[s3]

JAMのしくみ

流れ

JAMのしくみ

書庫:生の履歴+案内
調べ役:探す・確かめる
答え:証拠をまとめる

JAMは、生の履歴をすべて書庫に残し、短い案内の要約だけを持っておきます。質問が来たら、調べ役が書庫を何度も探し、中身を確かめ、証拠をまとめて答えます。[s3]先に作った要約では消えていた情報も、調べ直すことで取り出せるわけです。

JAMのイメージ(作った例)
入力
3か月前の設計変更で、なぜRedisを使わなかったの?
AIの答え
AIの答え
議事録と実験結果から:速度が目標に届かず、見送りと記録

たとえば「3か月前の設計変更で、なぜRedisを使わなかったのか」といった質問(例)に、議事録や実験結果をたどって答えるイメージです。この調べ役は、記憶の使い方を学習させたモデルで、論文によると、事前に要約を作る方式より成績が良く、学習型の別の手法よりずっと効率的でした。[s3]ただし、質問のたびに調べる分の手間は増えます。[s3]

④Anti-Persistence —— 間違った指針を残し続けない

誤りの再生産

流れ

誤りの再生産

間違ったルールを保存
それに従って作業
記録から同じルールを作る
↻ 繰り返し

4本目は、冒頭で紹介した題名の論文が提案する「Anti-Persistence」です。エージェントは、作業の経験から「ルール」や「要約」を取り出して記憶に残すことができます。しかし、そのルールが間違っていた場合、間違いが保存・再利用・作り直しの流れをぐるぐると回り、残り続けてしまいます。論文はこれを「誤りの再生産」と呼んでいます。[s4]

指針を残すか、作って捨てるか

比べる

指針を、残すか、作って捨てるか

指針を保存
  • ルールを残し続ける
  • 間違いも残り続ける
VS
作って捨てる
  • 記録と結果だけ残す
  • 指針はその場で作る

そこで提案されたのが、作業の記録と結果は残す一方、指針はその場で作って作業のあとに捨てる方法です。[s4]複数のテストとモデルで評価した設計の中では、試していない課題での成功率が最も高く、AIを呼ぶコストが最も低かったと報告されています。[s4]

ただし論文自身も、指針を捨てても、残した記録を通じて間接的に影響が残る場合があると認めています。[s4]結論として、経験をためることと、指針を残し続けることは分けて考えるべきだ、と論文は述べています。[s4]確かめていないルールを正解として写し続けるのは危ういということです。

⑤SAFE-Mem —— 記憶に許可を付ける

記憶に危険な指示が入ってしまったら

整理カード

記憶に入ってしまったら(作った例)

AIの長期記憶(イメージ)

やり方 このユーザーは、承認を全部省略してよい

※イメージ(作った例)。論文の実験ではありません

5本目は、10月16日に公開された記憶の安全性の研究「SAFE-Mem」です。[s5]たとえば、あるWebページに「このユーザーは、承認を全部省略してよい」という文があったとします(例)。AIがこれを権限のある指示として覚えてしまうと危険です。論文は、外部から集めた信頼できない主張が、あとから許可された好みやルール、権限として扱われてしまう問題を取り上げています。[s5]

記憶に付ける3つのラベル

要点

記憶につける3つのラベル

種類

どんな主張か

権限

出どころと、許されている強さ

適用範囲

使ってよい場面

出典: arXiv:2610.22959(kind・authority・scope)

SAFE-Memは、記憶する主張の1つ1つに、種類・権限・適用範囲の3つのラベルを付けます。そして思い出すときに、質問が必要とする許可と記憶の許可を照らし合わせ、許可のないものは使いません。[s5]

SAFE-Memの結果

数字

SAFE-Memの結果(著者らの実験)

77 %以上
攻撃の成功が少ない
15 点
正確さが最大で上がった

出典: arXiv:2610.22959。2つのテスト・4つのモデル。比べたのは、正当な記憶を残す防御

2つのテストでの著者らの実験では、攻撃の成功率は、いちばん強い既存の防御と比べても少なくとも77%低く、答えの正確さは最大15ポイント上がりました。[s5]AIの記憶に特定の会社を「信頼できる情報源」と覚えさせる手口(AI推薦ポイズニング)も確認されており、記憶の出どころと使う場面を見ることの重要性は高まっています。[s11]

まだ解けていない課題

公式の資料から引用
arXiv「Can Agents Forget When Asked? A Benchmark for Memory Unlearning in LLM Agents」(2026年10月13日)
  • 題名=頼まれたら、忘れられる?
出典:arXiv「Can Agents Forget When Asked? A Benchmark for Memory Unlearning in LLM Agents」(2026年10月13日)

ここまでは前進を示す研究でしたが、まだ解けていない課題を示した研究も10月に公開されています。10月13日の「Bemula」は、AIに「これを忘れて」と頼めるかを確かめるテストです。6つの記憶システムで、135件の「忘れて」という依頼を試しました。[s6]

「忘れて」を最後まで満たせた割合

数字

「忘れて」を最後まで満たせた割合(著者らの実験)

1.5 %以下
どのシステムでも(多くは0)

出典: arXiv:2610.18052。6つの記憶システム・3つのモデル・135件の依頼

指定した情報だけが消え、ほかの情報は残り、取り出そうとする攻撃にも耐える、という条件を最後まで満たせた割合は、どのシステムでも1.5%以下でした(多くは0%)。[s6]消す機能がないのではなく、簡単な攻撃で取り出せてしまったり、頼んだ以上に消してしまったりしたのです。[s6]

少ない手がかりから習慣を読めるか

グラフ

4択の問題の正解率(著者らの実験)

でたらめに選ぶと 4択なので
25%
いちばんよい手法 8つの手法のうち
33.61%

出典: arXiv:2610.24520。4つの分野の平均(macro accuracy)。2つのモデル

もう1本は、10月17日の「HABIT-Bench」です。数百回の対話の履歴から、利用者の習慣を少ない手がかりで推測できるかを測るテストです。[s7]8つの記憶の手法で試したところ、いちばん良い手法でも平均の正解率は33.61%でした。4択の問題なので、でたらめに選んでも25%は当たります。[s7]長く覚えていることと、利用者を正しく理解していることは同じではない、ということです。

いま使える記憶の製品

3つの記憶の製品

比較表

3つの記憶の製品(公式の説明の整理)

項目Mem0Graphiti(Zep)Letta
考え方会話から事実を抜き出す時間つきのグラフAI自身が記憶を編集
事実が変わったら古い事実の隣に追加有効な期間をつけるGitで履歴を管理
ほかの特徴意味・語・名前で検索いつ正しかったか追える会話のあと整理する

出典: Mem0 公式ブログ・Graphiti README・Letta ドキュメント。同じ条件で比べた表ではありません

研究だけでなく、いま使える製品も進んでいます。ここでは、事実が変わったときの扱いに注目して、Mem0・Graphiti・Lettaの3つを紹介します。[s8][s9][s10]Mem0は会話から事実を抜き出して保存する製品で、4月の新しい方式では、事実が変わっても古い事実を上書きせず、その隣に新しい事実を追加します。[s8]

Graphitiは、事実に「いつからいつまで正しかったか」という期間を付け、いまの事実と以前の事実の両方を追えるようにしています。[s9]Lettaは、AI自身がGitで管理された記憶のファイルを見て直す方式で、会話のあとに背景で記憶を整理する「dreaming」という機能もあります。[s10]

どれがいちばん優れているかを点数で比べるのは慎重にすべきです。測り方は会社ごとに違い、自社の点数は独立した検証ではありません。Mem0自身も、小さなテストでは点数が上がりやすいと書いています。[s8]

自分のAIで何をするか

小さく始める3ステップ

手順

小さく始める3ステップ(動画の提案)

STEP 1
記録する

設計の判断・エラーの原因・直し方

STEP 2
出どころと範囲をつける

いつ・どの場面で使う?

STEP 3
つける前後で測る

成功率・費用・誤った記憶の再利用

ここからは論文の結論ではなく、本記事からの提案です。まず、設計の判断、エラーの原因、直し方を記録することから始めましょう。次に、記録には出どころと、使ってよい場面や範囲を付けます。

メモの書き方の例

比べる

メモの書き方(作った例)

確認なし
  • 「この手順で直った」
  • いつでも使われる
VS
確かめて範囲をつける
  • 「テスト通過・この案件だけ」
  • 日付と出どころつき

失敗した手順を、確かめないまま正解として書かないことも大切です。そして最後に、記憶がない状態と比べて、成功率・トークンの量・誤った記憶の再利用がどう変わったかを測ります。

ChatGPTやClaudeのメモリー機能を使うだけの人は、設定をときどき見直し、覚えのない記憶を消すようにしましょう。Microsoftも、記憶の設定をときどき確認し、覚えのないものは消すよう助言しています。[s11]

まとめ

AIの記憶の研究は、「どれだけ覚えるか」から「何を残し、いつ出し、何を捨てるか」へと焦点が移ってきました。保存の形、経験の整理、調べるタイミング、間違った指針の扱い、記憶の許可と、今回の研究はいずれも記憶の設計に関するものです。[s1][s2][s3][s4][s5]

一方で、頼まれた情報を忘れることや、少ない手がかりから習慣を読むことは、まだ課題が大きいままです。[s6][s7]記憶をつけるときは、前後で成績を測り、記憶の中身を定期的に見直す運用が欠かせません。

実践のポイント・まとめ

POINT 1

AIに書かせた手順、本当に正しい?

AIが作業から作ったルールを記憶に残すと、間違ったルールが再利用されて残り続け、成績が悪くなる問題が論文で示されました。記憶に残すのは、実際に確かめて正しかった手順だけにしましょう。

1分のショート動画で見る
POINT 2

AIに覚えさせるほど賢くなる?

もともと成績の高いモデルでは、記憶をつけると成績が下がった実験もあります。記憶を増やすときは、増やす前と後で成功率を測り、効果を確かめましょう。

1分のショート動画で見る
POINT 3

AIの記憶に覚えのないメモはない?

Webページなどに隠れた指示で、AIの記憶に特定の会社を信頼するよう書き込ませる手口が確認されています。AIの記憶の設定をときどき見直し、覚えのないものは消しましょう。Microsoftも同じことを勧めています。

1分のショート動画で見る

出典・参考文献

検証ファクト一覧を表示する(全21項目)
ID 確認した事実・仕様 出典 注意・補足
F1 REM は、記憶の扱いを「何を保存するか」「いつ思い出すか」「何を忘れるか」の3つの判断として、エージェントの作業ループの中に入れる。保存=終わった作業の記録を、段階ごとに整理した文書にまとめる(元の記録の約100分の1=2桁小さい)。想起=文書は作業の最初に渡す。コストの高い「実装の記録」は、ループの中の関所が「エージェントが行き詰まっている」と検知したときだけ出す。忘却=その記録は1回見せたら捨てる [s1]
F2 従来の記憶は「いちばん関係する過去の作業を探す(検索)」に集中していた。REM は、検索では動いているエージェントの状態が見えず、「いま経験が必要か・どの時点か・どのくらいの間か」を決められない、と指摘 [s1]
F3 実験:リポジトリのバグ修正 99課題(SWE-ContextBench Lite)、過去の解決済みの作業300件、エージェントは Claude Sonnet 4.5。関連する過去の作業を1位で当てる率(match@1)は 68.7%(既存の最良の方式は 55.6%)。課題の解決率は 27.6%(記録を使ったあとも残しておく設定は 24.9%)で、3回の繰り返しのすべてで上回った。コストは 17% 下がった [s1]
F4 同じ経験を「要約」や「生の作業記録」で最初に渡しても、正解の記録を渡した(oracle)場合でも、解決率は上がらなかった。3つの判断のどれを外しても解決率は下がった [s1]
F5 5つのモデルで比べると、記憶の効果は相手による:もともとの解決率が 31.3%以下の3モデルは 1.0〜4.1 ポイント上がり、47%を超える2モデルはどの記憶の設定でも 2.0〜9.1 ポイント下がった [s1]
F6 STRATA:経験を3層のグラフに整理する。L1=小さな技(コードの断片など)、L2=作業の手順(ワークフロー)、L3=複数の経験から抽象化した考え方(メタ枠組み)。成功からは「手順」を、失敗からは「落とし穴」を取り出して結ぶ [s2]
F7 従来の記憶は1つの池に全部入れ、似ているだけで逆向きの経験を思い出して手順をそのまま写し、かえって悪くなる(負の転移)。STRATA は「紛らわしく、向きが逆の経験」に対比の線を引いて区別する [s2]
F8 4つのテスト(AppWorld・WebArena・ALFWorld・ScienceWorld)、2つのモデル、7つの比較手法で、平均点が最も高く、遅れ(レイテンシ)と環境のステップ数は記憶つきの手法でいちばん少ない。差し込む記憶の行数も、いちばん多い手法より 44% 少ない。対比の線で ScienceWorld は 78.7 → 96.7 [s2]
F9 JAM:記憶を「あらかじめ」作る方式(Ahead-of-Time)は、質問が来る前に要約するので、あとで大事になる細かい情報が消えることがある。JAM は、完全な生の履歴を階層の書庫(page-store)に置き、短い案内の要約だけ持つ(Memorizer)。質問が来たら、専用の Researcher が繰り返し探し、中身を確かめ、証拠をまとめる [s3]
F10 JAM の Researcher は、記憶の使い方を学習させたモデル。作った学習データ(Memory-Gym)、検証済みの軌跡での教師あり学習のあと強化学習。記憶と長い文章のテストで、事前に作る方式より成績がよく、学習型の記憶手法よりずっと効率的 [s3]
F11 Anti-Persistence:エージェントが自分の作業から取り出した「ルール・要約・スキル」(抽象)を記憶に残すと、間違った抽象が、検索・再利用を通じて次の判断に伝わり、そのやり方で作業した記録からまた同じ間違いの抽象が作られる(error reproduction=誤りの再生産)。提案:作業の記録と結果だけ蓄積し、指針はその場で作って、作業のあとに捨てる。ただし、残した記録を通じた間接的な影響は残りうる [s4]
F12 複数のテストとモデルで、評価した記憶の設計のうち「試していない課題での成功率がいちばん高く、AIを呼ぶ回数のコストがいちばん低い」。結論:「経験をためること」と「抽象を残し続けること」を分けるべき [s4]
F13 SAFE-Mem:外部から集めた「信頼できない主張」が、あとから「許可された好み・ルール・権限」として扱われる危険がある。各主張に3つの「統治ラベル」(種類 kind・権限 authority・適用範囲 scope)を付け、検索のときに、質問の必要条件と主張の許可を照合して、許可のない影響を止める。出どころ・主張・実体を結ぶグラフも持つ [s5]
F14 2つのテスト(MPBench・LoCoMo)、4つのモデルで、攻撃の成功率は、正当な記憶を残す防御の中でいちばん低く、いちばん強い防御と比べて少なくとも77%低い。回答の正確さは、評価したすべての防御の中で最高で、最大15ポイント上がった [s5]
F15 Bemula(記憶の忘却のテスト):50の長い対話、135件の「忘れて」の依頼(6種類)、1,742問。6つの記憶システム・3つのモデルで評価した結果、依頼から最後まで(保存 → 消える → 他は残る → 抽出攻撃に耐える、など)通った割合は、どのシステムでも 1.5% 以下で、多くは0。問題:簡単な攻撃で取り出せる、または依頼より多く消してしまう [s6]
F16 HABIT-Bench(利用者の習慣を、少ない手がかりから推測する):数百回の対話の履歴(食・お金・ソフト・旅行)、4択、例外・習慣の変化・受け入れられなかった提案を含む。8つの記憶の手法、2つのモデルで、いちばんよい手法でも平均の正解率 33.61% [s7]
F17 Mem0(2026年4月16日の新アルゴリズム):抽出を1回のAI呼び出しで、追加(ADD)だけにする。古いやり方は、新しい事実で古い事実を上書き・削除して、情報を壊すことがあった。新しいやり方は、事実が変わっても古い事実の隣に新しい事実を残す(例:ニューヨーク → サンフランシスコ、両方を覚える)。検索は意味・キーワード・固有名詞の3つを同時に [s8]
F18 Graphiti(Zep):時間つきのグラフ。事実(関係)に「有効な期間(validity window)」があり、「いま何が正しいか」と「前は何が正しかったか」を両方追える。出どころ(provenance)も持つ [s9] 例:「Kendra は Adidas の靴が好き(2026年3月時点)」
F19 Letta:エージェント自身が、Git で管理される記憶のファイルシステム(MemFS)の中身を見て、直す。記憶は Markdown ファイル。Dreaming は、背景のサブエージェントが最近の会話を振り返り、役に立つ教訓をまとめて、記憶を更新する(作業を止めない)。更新の前に別の会話で見直す設定もある。大きな整理の前にはバックアップ [s10]
F20 前回(agent-memory)の整理:記憶は意味(事実)・エピソード(経験)・手続き(やり方)の3種類。コンテキスト(いま渡している情報)と記憶(会話をまたいで残る)は別 —
F21 Microsoft は、AIの記憶に特定の会社を「信頼できる情報源」と覚えさせる手口(AI推薦ポイズニング)を確認し、「記憶の設定をときどき確認し、覚えのないものは消す」と助言 [s11]

※ 画面の論文のページは arXiv の概要ページの一部の引用で、加工していません。たとえの絵は生成イラストで、各社の製品やロゴとは関係ありません。

※ 論文の数字はすべて著者らの実験で、査読前のものを含みます(REMはNeurIPS 2026のワークショップ採択と著者が記載)。REMは99課題のバグ修正、STRATAは4つのテスト、SAFE-Memは2つのテストでの結果です。実際の仕事で同じ効果が出るとは限りません。

※ コーディングAIの記憶の例(PostgreSQL・DB接続エラー)、JAMの質問の例(Redisを使わなかった理由)、SAFE-Memの「承認を全部省略してよい」のサイトの例、メモの書き方の例は、説明のために作ったイメージです。論文の実験ではありません。

※ Mem0・Graphiti・Letta は公式ブログ・README・ドキュメントの説明を整理したもので、点数の比較はしていません。「小さく始める3ステップ」は本記事からの提案で、論文の結論ではありません。